隠蔽・捏造したいと思った瞬間。

日本物理学会欧文誌(JPSJ)に出す論文も無事書き終わり、あとは先生に英語の表現チェックしてもらったり、新しいプロジェクト用の予備計算したりの日々だった。金曜日までは。

あれは金曜日の昼過ぎだった。いわゆる速報(Letter)である投稿予定の論文には詳細を載せていなかった自分の理論を、よりわかりやすい形に直しているときだった。その理論は汎用性がかなりあるので、その理論の方法を発表するという内容でもう一本論文書くつもりでまとめていた。
やっているうちに、一箇所で違和感を覚えた。理論作っているときには妥当だと思っていた箇所が、何か変な気がしたのだ。その箇所はかなり根本的な部分に相当していて、建築物で言えば土台部分と言ってもよい。鉄筋だと思っていれていた一つの棒が、鉄筋の割には変な色をしている、そんな感じだった。
まず、直感で「間違った」と思った。ここが間違っていると二か月分くらいの仕事がふっとぶ。本当に間違っているかどうか確かめる前に、頭がくらくらした。
もちろん、気持ちとしては「間違っているはずがない。間違っていないでほしい」わけで。
その鉄筋は、かなり入り組んだところにあって、それをただ引っこ抜いて正しい鉄筋に取り替えられるかどうかわかなかった。その一本を抜くと、建物が倒壊しそうな気がした。「せっかくここまで順調にきたのに。論文も出せそうなのに」と思った。
そしてそこで、「論文出してしまってから、そこで初めて間違えたことに気づいた振りをして、今は見なかったことにしよう」という気持ちが芽生えた。見なかったことにするのはたやすい。この理論について一番詳しいのは先生ではなく自分なのだから。
でもこれは隠蔽じゃないか。知っててそのままにしたのだから、捏造に等しい。いや、まて、建物全体を取り壊さずにその鉄筋だけ正しい鉄筋に取り替えられる可能性もあるかもしれない。だからとりあえずこの鉄筋がどこまで理論に影響を与えているのか確かめなければならない。どうせ今日は金曜日、次に議論するのは月曜日で構わない。隠蔽する必要は無い。自分で治せばいい。
というわけで、その瞬間ちらりと隠蔽を考えたけれど、月曜日に報告するということにして、隠蔽工作には走りませんでした。

ミスの種類としては、本来xであるところをxの二乗にしてしまったような感じで、最後の最後までは、x=1で計算を進める手法のため、建物にほとんど影響を与えていないことがわかった。しかし最後の絵に関しては、xとxの二乗の差が表れてしまうので、計算しなおしである。
xであるがために、前に作っていたその絵を描くために必要なプログラムが使えず、一から作ることになった。

というわけで、土日返上でいま研究室におります。
金曜日にコンビニで無洗米2kg買い、今日はドンキで魚の缶詰を買ったので、食料の心配もありません。
今日の夕ご飯は研究室で炊きたてご飯(研究室には炊飯器が常備されている)、味噌汁、コーンスープ、さけ水煮の予定です。

まあ、結局なんとかなりそうで、月曜日には間に合いそうで、先生には「なんかミスありましたが直しておきました」と言えそうなので、スケジュールには変更なさそうでほっとしています。